パンデミック下の介護・医療現場で働く外国人スタッフの意識を探る


大野 俊(清泉女子大学文学部地球市民学科教授、京都大学東南アジア地域研究研究所連携教授、ハワイ大学公衆衛生研究所外部教授)

2020 年度、所属先の清泉女子大学から、人生で最初で最後となるサバティカル(特別研究期間)を頂いた。ところが、その直前から新型コロナウイルスの感染が拡がり始めた。ついには世界保健機構(WHO)によるパンデミック宣言、そして世界同時の国境封鎖。多民族社会のありようなどを考えようと、海外で研究生活を目ろんでいたが、計画は完全にとん挫した。

当面は日本国内にとどまって研究するしかない。では、何をテーマにするか。パンデミックによって世界各国で起きた深刻な問題は、医療・介護の崩壊である。九州大学に在籍したころの2007 年に立ち上げた共同研究「日本における介護・看護分野の労働市場開放をめぐる国際社会学的研究」では、国内外で多数の東南アジア出身の看護・介護従事者に面談してきた。長引くコロナ禍で彼らの日常がまず気になった。

日本全国に緊急事態宣言が出される少し前、京都に出向き、研究仲間であるマリオ・ロペズ・京都大学東南アジア地域研究研究所准教授に相談した。その際、東南アジア国際共同研究拠点形成のプロジェクトを募集中であることを知った。ロペズ准教授の意見を参考にし、他の研究仲間4 人にも声をかけ、「新型コロナウイルス感染拡大に伴うケアの意識・実践の変容─日本定住外国人看護・介護スタッフに焦点をあてて─」という研究計画案を書いて応募した。タイムリーな問題ということで、IPCR タイプIVとして計画案を採択して頂いた。

予想されたことではあるが、感染防止が至上命題となった看護・介護現場へのアクセスは極めて難しくなった。過去に訪問調査を快く受け入れてくれた施設も、部外者はすべてシャットアウト。このため、以前から人間関係のある外国人看護師・介護福祉士ら関係者へのオンライン面談が調査の中心になった。6 月以降の感染が比較的に収まっていた時期には、ソーシャル・ディスタンスを前提に訪問調査を受け入れてくれた施設や人材養成会社もある。いずれも、経営者らと長いおつきあいのあった施設である。互いの理解や信頼関係なしに、パンデミック下の対面調査は難しいことを、面談のアポをとる段階などで何度も痛感した。

オンライン面談は、相手が快諾してくれれば、国内の遠隔地や海外に住むインフォーマントからもナラティブが得られて便利ではある。だが、平行して、限定的な訪問面談調査も進めて思うのは、そこで得られるデータの広さと深さである。予想もしなかったほど多くの関係者に面談できた時もある。喜怒哀楽を交えての話が盛り上がり、1 時間の面談予定が2~3 時間と大幅に伸びることもあった。私たちが久しぶりに対面した職場外の人間だったせいか、パーテーション越しに、積もる話を率直にしてくれた外国人介護スタッフもいる。

新型コロナウイルスは実にしぶとい。日本は11 月以降になって過去最多の新規感染数を更新し続ける「第3 波」に見舞われている。先行きの見通しが立たないなか、私たちの研究は今後も暗中模索しながら進めるしかない。


外国人看護スタッフにSkypeインタビューする筆者