東南アジアにおける「応答性の政治」


見市 建(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科・准教授)

IPCR タイプⅣ「近い将来のプロジェクト形成を目指す萌芽型共同研究」で、「東南アジアにおける『応答性の政治』(2016-2017 年度)を採択していただいた。本研究仮題の鍵概念である政治におけるアカウンタビリティとは、「政府が情報開示を通して、政策決定および帰結に関して市民に応答する責任を負うこと」および「政府がその責任遂行を怠った場合に制裁が課されること」を意味する。効果的なアカウンタビリティ・メカニズムの存在は、市民の選好に政治家の行動を近づけることを可能にする。また公共サービスの効率的かつ効果的な提供が期待される。

しかし、政治指導者による有権者への直接的な応答は、ポピュリズム政治家の台頭にもつながっている。SNS の普及がこうした政治のあり方を加速化させている。タイのタックシン、フィリピンのドゥテルテ、インドネシアのジョコ・ウィドドなど、経済的分配、汚職や麻薬の撲滅を訴えて人気を獲得している。彼らは国民の支持を背景に、しばしば議会を迂回して「超法規的」な政策を実施し、法的安定性や少数派の人権を危うくする。国家機関間の権力の相互抑制(水平的なアカウンタビリティ)が十分に機能していないことが問題の根幹だろう。

さて、本課題では、こうした「応答性の政治」の実態を知るべく、内情に通じた実務家を招聘して、研究会と聞き取り調査を行った。代表者の私の我儘で、二ケ年ともインドネシアの現政権に近く、若手で研究の素養もある人物に来てもらった。一年目は闘争民主党中央執行部委員スジャトミコ・アリボウウォ氏、二年目は大統領特別スタッフ補佐官プラマアルタ・ポデ氏である。スジャトミコ氏は与党と大統領の緊張関係を中心に、プラマアルタ氏は大統領府の対外広報の裏側について、ざっくばらんに話をしてくれた。また名古屋大学に滞在中だったドイツ・フライブルグ大学のクリスチャン・フォン・リュプケ氏を囲んでの研究会も実施した。

機動的に研究会を開催できたこと、とくに一年目は私が岩手県にいたこともあって、京都に研究拠点を置けることは非常に助かった。おかげさまで、2 年連続で落選していた科研にも採択され(基盤B(海外学術調査)「東南アジアにおける応答性の政治─アカウンタビリティ改革の導入とポピュリズムの台頭」、2017-2019 年度)、タイプⅣの趣旨にも沿った結果になった。科研の最終年度には「SNS 時代の東南アジア政治」(仮題)の出版計画を練っているところである。