IV-2.「紅河デルタ平野氾濫原地域の長期河道変遷と集落立地から見た住民の水害対応」(平成23-24年度 FY2011-2012 継続)


  • 研究代表者:船引彩子(日本大学・工学部機械工学科)
  • 共同研究者:柳澤雅之(京都大学・地域研究統合情報センター)
  • 米澤 剛(大阪市立大学・大学院創造都市研究科)
  • 大田省一(京都工芸繊維大学・文化遺産教育研究センター)
  • 柴山 守(京都大学・地域研究統合情報センター)
  • 桜井由躬雄(東京大学・名誉教授)
  • 竹村貴人(日本大学・文理学部)
  • 河野泰之(京都大学・東南アジア研究所)

研究概要

ベトナム北部紅河デルタ平野の氾濫原地域において、長期的な気候変動と水害、人々の居住空間の変遷をボーリング掘削と歴史資料によって明らかにする。特にこれまで詳細なボーリングコアの解析が行われていない平野北部のドゥオン川流域の洪水堆積物に注目し、古地図やボーリングコアの分析と年代値測定によって大規模洪水の発生しやすかった時期を特定し、歴史文献などに見られる集落立地の変遷と比較して、長期的な環境変動に対する人間活動の応答について検討する。

詳細

紅河デルタ平野を形成する紅河は首都ハノイ近郊でダイ川とドゥオン川という2大支流を分流し、二つの河川は物流や交通の大動脈として大きな役割を果たしてきた。このうちフランス時代に紅河本川から分断されたダイ川に対し、ドゥオン川は現在でも紅河の約2割の流量を担い、ラピッド川という別名で示されるように、流れが速いことで知られている。また土砂供給量が大きいために、紅河との分流地点では19世紀中葉には堆積物のために阻塞されていたという記録もある。一方、これまでドゥオン川氾濫原域での詳細なボーリング調査は行われておらず、紅河本川とドゥオン川の分流時期や洪水堆積物の特徴など不明な点が多く残されている。

本研究では、古地図によって河道の変遷を分析するとともに、ドゥオン川流域の後背湿地でボーリング掘削を行い、地形学的視点から紅河デルタ平野氾濫原の過去の洪水履歴や長期的気候変動の影響を明らかにする。さらに集落立地の変遷などと組み合わせることによって、水害と人々の暮らしの関係をより明らかにしていくことを目的としている。

ボーリング掘削により完新世(過去約1万年)における紅河(主にタイビン川水系)の1000年単位の洪水頻度と土砂堆積量が推定される。その結果、紅河デルタで大規模な水害が発生しやすかった時期、またタイビン川水系水に特に流量が多かった時期がわかる。これらの結果と遺跡の分布や文献上で示される集落の立地条件から、時間軸に沿って各時代ごとの居住空間の分布と洪水の関係が明らかになると考えられる。さらには、文献上で示される大規模洪水の記録を科学的データで実証することも期待される。


ドゥオン川後背湿地,シルト層中の木片

ハノイ付近で紅河から分流したドウオン川