I-1.「タイを中心とした国際労働移動に関する研究:地域経済統合は何をもたらすのか?」(平成25-26年度 FY2013-2014 継続)


  • 研究代表者:矢倉研二郎(阪南大学・経済学部)
  • 共同研究者:小林 知(京都大学・東南アジア研究所)
  • Keola, Souknilanh(日本貿易振興機構アジア経済研究所)
  • 水野敦子(九州大学・大学院経済学研究院)
  • 初鹿野直美(日本貿易振興機構アジア経済研究所・バンコク事務所)
  • 竹口美久(京都大学・アジア・アフリカ地域研究研究科)

研究概要

本研究は、タイへのその周辺諸国(カンボジア・ラオス・ミャンマー:CLM)からの労働移動と、これらの国々の各種産業の発展との間の相互規定関係を明らかにすることを目指す。そしてそのことを通じて、ASEAN の経済統合や大メコン圏開発(GMS 開発)による国境を越えたヒトやモノ、資本等の移動の自由化・円滑化がCLM とタイの産業や労働市場に与える効果を占う。

以上を大枠の研究課題とした上で、縫製業を事例として取り上げ、タイの縫製業によるCLM からの出稼ぎ労働者の雇用が、タイとCLM の縫製業に与える効果とその具体的なメカニズムを、縫製工場とその労働者に対する聞き取り調査を通じて明らかにする。

詳細

近年増加してきたCLM 労働者によるタイへの出稼ぎは、これら諸国の各種産業にさまざまな影響を与えうる。タイでの就労で知識や技能を身につけた労働者が自国に帰ることで、CLM 国内の産業の発展が促される可能性がある一方で、CLM からタイへの労働移動が一層活発化すれば、CLM 国内でも「人手不足」が生じ、各種産業の発展が阻害されるかもしれない。他方で、タイの一部の産業ではCLM 労働者への依存が進んでおり、そのことがタイのそれらの産業における技術の高度化や高付加価値分野への進出を阻害する可能性もある。

本研究は、ASEAN の経済統合やGMS 開発の進展がCLM とタイの経済にもたらす効果を占うための材料とするべく、上述のような、CLM からタイへの労働移動とCLM とタイそれぞれにおける産業の発展との相互規定関係を明らかにすることを目的とする。事例として取り上げる縫製業は、①タイとCLM いずれにとっても主要産業であり、②タイの縫製企業がCLM 労働者への依存を高めており、さらに③タイの縫製企業がCLM に工場を設置する動きがある、といった点で、本研究にふさわしい事例である。

本研究の第1 の意義は、域内経済統合やGMS 開発がCLM とタイの経済に与える効果を占うための材料を提供するということにあるが、それだけでなく、本研究は、CLM からタイへの労働移動がCLM とタイの国内の産業に与える効果を明らかにすることを通じて、これら各国が域内の労働移動にどのような姿勢で臨むべきかについてもヒントを与えることができる。


カンボジアの縫製工場

カンボジアの縫製工場