IV-13.「正義を求める記憶と言説:アジアにおける大戦中の日本軍の行為をめぐる対立の分析」(平成26年度 FY2014 新規)


  • 研究代表者:松野明久(大阪大学・大学院国際公共政策研究科)
  • 共同研究者:水野広祐(京都大学・東南アジア研究所)
  • 内海愛子(大阪経済法科大学・アジア太平洋研究センター)
  • 古沢希代子(東京女子大学・現代教養学部)
  • 鈴木隆史(フリーランス研究者)

研究概要

本研究は、本研究班による平成23 年度採択課題「東南アジアにおける戦争の記憶と戦後和解をめぐる関係の再構築」において収集した「慰安婦」制度被害者の過去及び現状についての証言及び日本側資料をもとに、彼女たちのあるいは地域社会の観念する「正義」とはいかなるものか、そしてそれが日本側の言説(とくには「慰安婦問題」否定の言説と論理)といかに、またなぜすれ違うのかを、分析から明らかにするものである。

詳細

本研究は、大戦中の日本軍の被害者が考える「正義」の観念を彼らが生きてきたその歴史的・社会的文脈において描き、理解されるべきものの総体を明らかにする。なぜなら、被害は暴力に始まってその後の人生に与えたインパクトを含むホリスティックな概念として把握されるべきだからである。被害者が求める正義も戦争中のことだけではなく、正義を訴えたい相手も日本兵だけではない。一方、日本軍の行為を否定する言説はこれを否定し噛み合わないものがあるが、それらを調停する論理は本当にありえないのかを問う。

本研究の意義は、①これまでまったく調査がなされていないインドネシア・スラウェシの事例を発掘し、日本側資料との突き合わせにより事実の究明を行う、②聞き取り調査に基づき被害をめぐる「意識」の全体像を描く、ということにある。一方、これを否定する言説はこうした被害が見えていないという意味でその認識空間がどうなっているのかについての分析が必要であり、本研究ではコンストラクティヴィズムの手法を応用しつつ分析を行いたい。

期待される成果としては、①スラウェシの事例研究は、日本軍・日本企業・現地社会が複雑にからんだ特徴的な状況を背景としたものであり、それを明らかにすることでこれまでの議論に新たな論点を付加することができる、②また、認識の重要性に鑑み事実認定とは異なる次元で論理的に調停されない限り対立する言説を乗り越えることは難しいということを明らかにしてこれまでの議論に一石を投じることができる。


南スラウェシで、旧日本軍司令部で働いていた男性が「慰安所」のあったところを指し示す。

ベッチェさん(左)は自宅から日本兵に連れ去られ、性奴隷とされた。いとこ(右)の男性はどうすることもできなかったと涙ぐむ。その後ベッチェさんは家族から追い出され、家政婦として働く等して、今はいとこの男性の家族と暮らす。