IV-5.「正義を求める記憶と言説:アジアにおける大戦中の日本軍の行為をめぐる対立の分析」(平成26-27年度 FY2014-2015 継続)


  • 研究代表者:松野明久(大阪大学・大学院国際公共政策研究科)
  • 共同研究者:水野広祐(京都大学・東南アジア研究所)
  • 内海愛子(大阪経済法科大学・アジア太平洋研究センター)
  • 古沢希代子 (東京女子大学・現代教養学部)
  • 鈴木隆史(フリーランス研究者)

研究概要

本研究は、これまで本「国際共同研究拠点」事業などを通じて収集した「慰安婦」制度被害者の過去及び現状についての証言及び日本側資料をもとに、関係者の「正義」の観念とはいかなるものか、そしてそれが日本側の言説(とくには「慰安婦問題」否定の言説と論理)といかに、またなぜすれ違うのかを、分析から明らかにするものである。本年度はインドネシアでの補完的調査を行い、東ティモールの調査結果と合わせて議論をまとめる。

詳細

本研究は、大戦中の日本軍の被害者が考える「正義」の観念を彼らが生きてきたその歴史的・社会的文脈において描き、理解されるべきものの総体を明らかにする。なぜなら、被害は暴力に始まってその後の人生に与えたインパクトを含むホリスティックな概念として把握されるべきだからである。被害者が求める正義も戦争中のことだけではなく、正義を訴えたい相手も日本兵だけではない。一方、日本軍の行為を否定する言説はこれを否定し噛み合わないものがあるが、それらを調停する論理は本当にありえないのかを問う。

本研究の意義は、①インドネシア・スラウェシの事例を発掘し、過去に行った東ティモールの調査結果を合わせ、日本側資料とつき合わせて事実の究明を行う、②聞き取り調査に基づき被害をめぐる「意識」の全体像を描く、ということにある。一方、これを否定するこうした被害が見えていない言説の認識空間がどうなっているのかという問いには、コンストラクティヴィズムの手法を応用しつつ分析を行いたい。

期待される成果としては、①スラウェシの事例によって、日本軍・日本企業・現地社会が複雑にからんで制度が存在していたことを明らかに、②東ティモールの事例によって辺境において現出した「慰安婦」制度の様態を明らかに、そして③事実認定とは異なる次元で論理的に調停されない限り対立する言説を乗り越えることは難しいという論点を明らかにし、これまでの議論に一石を投じることができる。


インドネシア南スラウェシ州で、「慰安所」の跡地に立ち当時の様子を語る男性。「慰安所」は竹でできたいくつもの長い家からなり、兵士が銃を持って警備していたという。

インドネシア南スラウェシ州で、日本軍の駐屯地跡を示す女性。彼女は自宅から毎日のようにこの駐屯地に通わされた。