IV-9.「インドネシア・パプア州における神経難病の時代的な環境変化と老化に伴う変遷」(平成27年度 FY2015 新規)


  • 研究代表者:奥宮清人(京都大学・東南アジア研究所)
  • 共同研究者:葛原茂樹(鈴鹿医療科学大学・保健衛生学部)
  • 小久保康昌(三重大学・大学院地域イノベーション学研究科)
  • Eva Garcia del Saz(高知大学・国際連携推進センター)
  • 松林公蔵(京都大学・東南アジア研究所)
  • 藤澤道子(京都大学・東南アジア研究所)
  • 平田 温(北秋田市民病院・神経内科・内科)

研究概要

インドネシア・パプア州(西ニューギニア)は、グアム島や日本の紀伊半島とならんで、筋萎縮性側索硬化症(ALS)とパーキンソン症候群が多発する世界3 大地域のひとつである。同地域の現地研究者と協力し、神経難病の病型や予後の縦断的な変化と、環境変化との関連、および老化の影響を調査することにより、病因に寄与する環境要因を研究する。

詳細

インドネシア、パプア州は、神経変性疾患が通常の100倍以上の頻度で多発することが報告された(1970年代)が、その後、十分な調査がなされていなかった。一方、多発地域のひとつであったグアムでは、生活様式の近代化と高齢化とともに、1980年代にALSの急激な減少とともにパーキンソン症候群の占める割合の増加が報告された。パプア州においても、一部の研究者によりALSの消失の可能性が報告された。しかし、我々の最近のパプア州での調査により、現在でもALSとパーキンソン症候群が多発していることが明らかになってきた。パプア州においては、生活の近代化が今まさに浸透してきており、高齢化も進みつつある。時代的な環境変化に伴うALSとパーキンソン症候群の病型の変遷を調査し、病因に寄与する環境要因と老化の影響を明らかにすることが目的である。

土壌や飲料水中のカルシウムやマグネシウムの欠乏や、そてつの実の神経毒が病因に関与するという仮説があるが、現在まだ確証はない。パプア州の症例は、紀伊やグアムに本来多発していたALS/パーキンソン/認知症複合と酷似しており、同一疾患である可能性が高い。パプアは、現在でもALSとパーキンソン症候群が多発している点が世界の多発地域の中でも特異的であり、縦断的に環境変化と病型の変遷を調査することにより、病因に迫ろうとする意義は大きい。

横断的、縦断的調査により、神経変性疾患の頻度とその推移を明らかにする。同一患者および家族内の患者において、継時的にALS、パーキンソン症候群、認知症の合併の詳細について明らかにする。ライフスタイルや生態学的な要因と、疾患や老化との関連を明らかにする。高齢者包括的機能検査、栄養調査とともに、飲料水や身体(毛髪等)の金属分析を実施し、環境変化にともなう、病態の変遷や予後を縦断的に追求することにより、病因に迫ることが期待される。


パーキンソン症候群の患者
前屈姿勢、動作緩慢、歩行障害を認める。後ろに娘さんが付き添う。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者
A:立位保持に家族のサポートを要する。
B:舌の萎縮を認める。
C:上肢帯と躯幹筋肉の萎縮を認める。
D:母指球筋の萎縮を認める。