V-1. 「市場を織る 商人と契約─ラオスの手織物業─」(平成28年度 FY2016)


  • 研究代表者:大野昭彦(青山学院大学・国際政治経済学部)

刊行物の内容

経済発展とは市場の形成過程であるという命題から出発して、「誰がどのようにして市場を形成するのか」という課題を、「いかなる商人がどのような契約で市場取引を実現させていくか」と読み替えて議論を進める。分析対象は、ラオスの農村手織物業である。そして、多様な関係的契約で特徴づけられる契約当事者間の固定的な紐帯の束として市場が形成され、また取引当事者が構築する自生的秩序が市場取引を安定化させていることを明らかにする。

詳細

経済発展の初期には市場そのものが低発達であるが、そのことは市場の存在を前提とする近代経済学の理論が市場の低発達性の分析ツールとはならないことを意味している。また開発途上国、とりわけその農村部では、取引を統治すべき近代法の効力も限定的である。本書は、このような社会の経済活動を分析するための枠組みを提示しようとしている。

そこで、「契約を結び、かつその契約を実施」するという経済行為が円滑になされるための商人による工夫、すなわち市場取引がホッブス的な自然の状態に陥ることを防ぐ諸制度の構築こそが市場の形成であるという命題を提示して、その検証を試みた。

市場を形成する主体は商人であるが、経済学の標準的教科書には商人は登場しない。本書は、商人に焦点を当て、その行動様式を取引に係わる契約形態で捉えて、市場の形成を分析しようとする新しい試みである。そして、近代法の統治が不在であるにもかかわらず、取引当事者が暗黙知にもとづく自生的秩序としての統治メカニズムを構築することによって市場の形成が促されることを明らかしている。この発想はハイエクの新自由主義に近いが、それが経済発展の初期段階でも意味をもつことが強調されている。また、ラオス経済が混乱した1990 年代後半から2000 年代初期という特異な期間を含むことによって、マクロ経済の不安定性が市場取引を安定化するメカニズムを崩壊させることも明らかにされている。

 


機織りをする少女

機織りをする少女

帳簿をつける織元