VI-4. 「1970年代タイの評論誌における文芸批評の変遷」(平成28年度 FY2016)


  • 研究代表者:宇戸優美子(東京大学・大学院総合文化研究科地域文化研究専攻)

研究概要

本研究の目的は、1970 年代のタイで発行された社会評論誌『社会科学評論』と文芸誌『本の世界』に焦点を当て、その中から特に文学関係の記事を抽出し、時代背景を下敷きにして読み解くことで同時代に共有されていた文芸思潮を探ることである。当時の文芸批評の潮流を掴むため記事内容の年表、目録を作成し、タイの近代文学から現代文学への橋渡しの時期における文芸批評の変遷を明らかにする。その目的のため、京都大学東南アジア研究所図書室所蔵の雑誌資料を収集、分析する。

詳細

タイで民主化を求める運動が広がった1970-80 年代にかけて刊行されていた『社会科学評論』(1964-97)、『本の世界』(1977-83)は、いずれも作家・詩人・編集者であるスチャート・サワッシー(1945-)によって編集、刊行が行われた雑誌であり、1980-90 年代のWriter Magazine、2016 年初で刊行を停止した文芸誌Writerにまでつながるタイ文芸評論誌の源流になっている。『社会科学評論』と『本の世界』の中で、小説を発表し頭角を現した作家は多いが、その代表格ともいえるのが女性作家シーダオルアン(1954-)である。また、『本の世界』の中でその経歴と作品について、タノーム・プラパート軍事政権崩壊後初めて詳しく評価されるようになったのが、言論の自由を求めて闘ったタイ近代文学を代表する作家シーブーラパー(1905-74)である。この代表的な作家2 名に特に焦点を当てる形で、主に1970 年代の雑誌メディアを研究対象とし、政治的背景も含めたタイの文芸批評の変遷をたどることを試みる。

これらの雑誌については従来その重要性が指摘されながらも、記事の内容や特徴についての分析はほとんど行われてこなかった。しかしながら、近代と現代のタイ文学史を結ぶこの時期の批評についてその形成過程を明らかにすることは重要であり、またシーダオルアンやシーブーラパーといった作家の個別研究にとっても、その経歴や作品に対する評価を検討することは大きな貢献となると考える。

 


雑誌『本の世界』

作家シーブーラパーの記念館