I-2.「改革期インドネシアにおける国境管理と境域社会のダイナミクス──地域間比較の視点から─」(平成28-29年度 FY2016-2017 継続)


  • 研究代表者:長津一史(東洋大学・社会学部)
  • 共同研究者:岡本正明(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  •                      大野美紀子(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  •                      伊藤 眞(首都大学東京・人文科学研究科)
  •                      福武慎太郎(上智大学・総合グローバル学部)
  •                      鎌田真弓(名古屋商科大学・経済学部)
  •                      小泉佑介(東京大学・大学院総合文化研究科)
  •                      本名 純(立命館大学・国際関係学部)
  •                      Riwanto Tirtosudarmo(インドネシア科学院・社会文化研究センター)
  •                      Alex John Ulaen(サムラトゥラギ大学・文学部)
  •                      細淵倫子(首都大学東京・社会学研究科)
  •                      加藤久美子(上智大学・グローバル・スタディーズ研究科)

研究概要

1990 年代以降の東南アジアでは、冷戦終結後、国境管理体制の再構築が急速に進んだ。経済面でのグローバル化が進展する一方で、人の移動に関わる国境管理は、一部地域では逆に厳格化された。本研究は、インドネシアの3 つの国境海域── 1)マラッカ海域、2)スル海域、3)ティモル海域──を取りあげ、そうした国境管理の変化と境域社会の変容の相互作用のダイナミクスを地域比較の視点から明らかにする。

研究目的

本研究は、インドネシアにおける1990 年代以降の国境管理の変化と、それを背景とした境域社会の変容を、生活圏、ネットワーク、民族編成の3 位相から動態的に捉え、ジャカルタ連絡事務所での資料収集や共同研究等を通じて地域間比較の視点から考察することを目的とする。インドネシアは、1998 年のスハルト政権崩壊後、「改革(レフォルマシ)」の時代に入った。経済グローバル化も進み、国境を越える人の移動も活性化した。しかし同時に、テロ事件の経験等を背景に、政府は国境管理の強化も図った。そうした状況の下、国境を跨ぐ生活圏を維持してきた3 地域の境域社会は、いかに自らを再編してきたのか、そのパターンにはどのような地域性が見出されるのか──これらが本研究の中心的な問いである。

意義と期待される成果

対象とする3 つの境域社会はいずれも、在地の海域移動ネットワークを基盤として維持されてきたミクロな社会文化圏である。そうした境域社会を比較の準拠枠とすることにより、本研究は、インドネシアにおける境域社会の動態の共通性と地域性の双方を析出しようとする。その作業は、インドネシアのみならず、東南アジア全域における国境の社会的意味を「管理される側」から再考するための端緒を拓くことにもなる。よりマクロには本研究は、東南アジアにおける越境の活性化と国境の顕在化が同時進行するグローバル化のメカニズムを、地域の文脈に焦点をおいて考察する試み、いわば地域研究とグローバル・研究を架橋する知的実践として東南アジア研究に寄与することを目指す。

 


インドネシア共和国・西ティモルと東ティモル共和国の国境ゲート。インドネシア側モタイン(Motaʼ in)の国境ポストは、2016 年、ジョコ政権下の国境・辺境・離島開発政策の一環として大々的なリノベーションが施された。モタインでは経済特区の設置が計画されている(撮影:長津一史、2017 年8 月)

インドネシア・北カリマンタン州ヌヌカン(Nunukan)の国際港。航路はマレーシア・サバ州のタワウと結ばれている。インドネシアの地続き国境のうち、もっとも人の移動が盛んな経路のひとつである。インドネシア南スラウェシ州のブギス・マカッサル人、南東スラウェシ州のブトン人、東ヌサトゥンガラ州の「ティモル」と総称される人びとの越境移動が特に盛んである(撮影:長津一史、2014 年8 月)。