IV-11. 「汚職取締の政治学」(平成29年度 FY2017 新規)


  • 研究代表者:外山文子(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 共同研究者:伊賀 司(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 三重野文晴(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 川村晃一(アジア経済研究所)
  • 小山田英治(同志社大学・グローバルスタディーズ研究科)
  • 瀬戸裕之(新潟国際情報大学・国際学部)
  • 浅羽祐樹(新潟県立大学・国際地域学部)
  • 木場紗綾(同志社大学・政策学部)

研究概要

現在、民主化論は見直しを迫られている。なぜなら、冷戦終結後に世界的に民主化が進んだと思われたが、その後民主化が後退する現象が多数みられるようになったためである。しかし、現在の新興国の政治に全く変化が見られないというわけではない。選挙を始めとする政治の民主化度は後退しつつも、「グッドガバナンス」「法の支配」といった価値は、権威主義的な政権担当者からも重要な政治的課題とされ、当該政権の正当性を支える旗印とされている。その最たるものが「汚職取締」である。民主化の度合いが後退する一方で、「汚職取締」は非常に積極的に推進されるという、従来は見られなかった「パラドックス」が生じている。本研究では「汚職取締」の政治的役割について着目することにより、21 世紀における新興国の民主化について新たな視座を提供することを目指す。

研究目的

近年、汚職取締は、従来の民主化の先発国を中心とする研究では理解できない新しい政治的役割を果たすようになりつつあるように思われる。汚職取締が強化される政治的背景、制度や法律制定における政治的争い、その後の汚職取締の実行における特徴、そして汚職取締が民主化に対して与える影響について検証する必要があると思われる。また汚職取締を重視する傾向は、一か国の中で完結するものではなく、国家間または汚職取締機関の間で影響し合うことにより、新たな国際的な潮流が生み出されている可能性もある。本研究では、汚職取締が政治的に注目を集めているタイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ラオス、韓国等を取り上げ、これらの国における「汚職取締」の制度と実態について比較検討し、さらにそれぞれの国の政治体制や権力構造の相違点を加味し分析することにより、民主化に関する新たな理論構築を目指す。

意義

本研究により、従来の民主化の方程式、つまり選挙を中心とする「制度的民主化」→汚職撲滅などによる「民主化の質の向上」といった単線的な民主化論の見直し・再構築を図ることが可能となるだろう。汚職取締のための機関や法の整備は、過去には例を見ないほどに多様なものとなっている。これらの制度設計をめぐる政治を分析することにより、民主化に移行期における障壁についても明確に浮かび上がってくると思われる。また現在の汚職は、マレーシアのナジブ首相の汚職事件にも見られるように、1 カ国のみならず国際的な要因が複雑に絡み合って起きている事例が存在する。本研究により、ある国の民主化に対する国際的な影響についても加味して分析を行うことができる。これらにより本研究は、21 世紀の政治状況に合わせた、新たな民主化論の構築を試みるにふさわしいアプローチとなりうるだろう。

期待される成果

各国の政治体制および権力構造の特徴と、各汚職取締機関の誕生の経緯と特徴、汚職取締に関する法律、実際の取締り状況の比較分析を行うことにより、政治体制と汚職取締との関係について明らかにすることができると期待される。またこれらの作業により、各政治体制における民主化の課題について、新たな視点から問題点を明らかにすることができると思われる。

 


タイ国家汚職防止取締委員会にてインタビュー

第1 回研究会の様子