IV-8.「高齢者の虚弱と社会的背景─日本とタイにおける地域間比較研究─」(平成28-29年度 FY2016-2017 継続)


  • 研究代表者:木村友美(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 共同研究者:坂本龍太(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  •                      Kwanchit Sasiwongsaroj(マヒドン大学・アジア言語文化研究所)
  •                      石本恭子(三重大学・大学院医学系研究科看護学専攻)

研究概要

本研究は、高齢者が要介護状態になる前の「虚弱(フレイル)」の状態に注目し、高齢者の虚弱がどのような社会的背景と関連しているかを明らかにする。本調査は、本邦およびタイにおいて行うことで、既存の米国老年医学会による虚弱(フレイル)の定義のような身体的機能重視の診断でなく、うつ・QOL といった精神的健康、社会的背景の状況を調査することで、虚弱高齢者の健康状態を複合的視点から解き明かすことを目的とする。さらに、虚弱がどのように感じられ、どのような状態としてとらえられているかについての質的なインタビューを加え、アジア地域における虚弱の概念について考察し、2 国間比較を行う。

詳細

東南アジア地域は急激なスピードで人口高齢化を迎えており、要介護の顕在化が社会問題となっている。要介護状態に移行しやすい状態「高齢者の虚弱(フレイル)」は、介護予防の視点からその特定が重要とされているが、その診断は未だ画一したものがない。米国老年医学会が提唱し広く用いられているFried のフレイル指標は、西洋文化的な背景をもつ「Active Aging」の理念に沿うものであり、アジア社会ではかならずしも当てはまらないという議論がなされてきた。

そこで、本研究では本邦およびタイの地域高齢者において虚弱(フレイル)の医学的評価を実施し、虚弱の状態にある高齢者の運動機能に加え、うつ・QOL といった精神的健康、社会的背景の状況を調査することで、虚弱高齢者の健康状態を複合的視点から解き明かすことを目的とする。さらに、「虚弱(フレイル)」がどのように感じられ、どのような状態として社会的にとらえられているかについて、高齢者本人とその家族に対する質的調査によって問う文化人類学的なアプローチも加え、アジア地域におけるフレイルの概念を明らかにする。

本研究の意義は、高齢者の虚弱をアジア地域で医学的に評価する情報収集の新規性に加え、その虚弱の背景を、運動機能だけでなく、心理、社会的な側面からも明らかにすることで、生活環境・地域固有の課題を分析し提示することである。また、地域間比較研究として、介護保険等の公的制度が普及した日本と、地域の相互扶助のネットワークが強固であるタイを比較することで、高齢者の虚弱をとりまく社会的背景が浮き彫りになり、相互の特性から学ぶべき点が見出せる可能性を秘めている。これによって、地域にそくした介護予防への糸口を示し、今後高齢化人口が急増する東南アジア地域において重要な介護予防分野に寄与すると考えている。

 


タイ・ナコンパトムにて「老い」についての聞き取り

高知県土佐町での高齢者総合機能評価の様子