II-2.「中国と東南アジアにおける政治経済的変容と女性の移動」(平成30年度 FY2018 新規)


  • 研究代表者:佐藤若菜(新潟国際情報大学・国際学部)
  • 共同研究者:速水洋子(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 簡 美玲(国立交通大学・客家文化学院人文社会学部)
  • 小島敬裕(津田塾大学・学芸学部)

研究概要

本研究の目的は、中国とタイ、ミャンマーにおいて、20 世紀以降の政治経済的変容が少数民族ないし山地民の女性の移動に与えた影響を、ジェンダーや世代間関係に着目して明らかにすることである。また、2019 年8 月から2020年1 月までの半年間、国立交通大学客家文化学院人文社会学部の教授、簡美玲氏を招へいする。本研究の成果は、全6 回の共同研究会(うち各年2 回は公開型)、簡美玲氏の単著、及び各メンバーによる『東南アジア研究』、Southeast Asian Studies、『台湾人類学刊』への投稿論文によって公開する。

詳細

本研究の目的は、中国とタイ、ミャンマーにおける20 世紀以降の政権交代や市場経済の浸透を踏まえて、少数民族ないし山地民の女性による移動の変遷とその特徴を明らかにすることである。
加えて、これらの移動が送り出し社会における男女の役割と世代間関係に与えた影響を、女性の日常生活で発揮される影響力や儀礼で示される威信に着目して検討する。

具体的には、20 世紀以降の産児制限や労働力確保を目的とした政策、戦乱、食糧難による移動、もしくは出稼ぎといった経済格差を背景とする移動など、大小様々な女性の移動を対象とし、中国とタイ、ミャンマーの事例を比較する。ここから、時期や背景、特性の異なる複数の移動の蓄積が、村落や親族、家族における彼女たちの地位や役割、及び関係の形成へ与えた影響について検討する。

中国と東南アジアの事例を比較する本研究の意義は、各地域の政治経済的背景や、各民族・地域を反映した移動をめぐる実践そのものが異なる点もさることながら、女性を研究するにあたっての方法論が大きく異なる点にある。中国大陸では、毛沢東による社会主義政策が大きな制約となって、女性に焦点をあてた研究が1990 年代以後になって増加しはじめたという実情がある。近年では、資料が乏しい毛沢東時代と急激な経済成長を特徴とするポスト毛沢東時代の変化が女性に及ぼした一連の影響について、他地域の研究手法を参照しながら明らかにする必要性が叫ばれており、本研究もまた同様の問題意識を有するものである。また、メンバーの一人である簡美玲氏は、中国西南部のミャオ族女性に関する研究に加えて、マレーシアの客家に関する研究の実績を有する。さらに、本研究のテーマに関連した単著を出版する予定である。


中国貴州省農村部に暮らすミャオ族女性とその孫。1990 年代以降、10 歳代後半から40 歳代までの男女を中心に出稼ぎ者が増加するなか、村に残った老年女性が孫の世話をしている(撮影:佐藤若菜、2010 年6 月23 日)。

同地域において、出稼ぎによって得た現金で建てた家。新築祝いとして、餅や飴、小銭を屋上からまく(撮影:佐藤若菜、2011 年2 月18 日)。