IV-4. 「紛争後社会で過去を紡ぐ:1991年の内戦終結後のカンボジアにおける歴史認識に関する研究」(平成29-30年度 FY2017-2018 継続)


  • 研究代表者:新谷春乃(東京大学・大学院総合文化研究科)
  • 共同研究者:Thun Theara(王立プノンペン大学・人文社会学部)
  • 北川香子(公益財団法人東洋文庫・研究部)
  • 小林 知(京都大学・東南アジア地域研究研究所)

研究概要

本研究は、ポル・ポト時代(1975-79 年)も含む20 年以上にわたる内戦が終結した1991 年以降のカンボジアにおける自国史叙述の展開に焦点を当てる。内戦終結後、カンボジアは立憲君主制と複数政党制民主主義へ移行し、国民和解、王国の復活、政党間争い、フン・セン首相の権力掌握といった様々な政治転換を経験した。この間、過去の歴史書が再版され、新たな歴史書が多数出版された。カンボジアの知識人たちは歴史叙述上いかなる環境下におかれ、どのような歴史を書いたのか。本研究は歴史教科書も含む歴史書の収集、分析、インタビュー調査を通して、内戦終結後のカンボジアの自国史叙述の展開の包括的理解を目指す。

詳細

本研究は、内戦終結後のカンボジアにおいて、カンボジア人知識人によって書かれた歴史関連書物の収集、分析を通して、カンボジアにおける自国史編纂の営みを明らかにすることを目的とする。内戦終結後のカンボジアは、国民和解、王国の復活、政党間争い、フン・セン首相の権力掌握といった様々な政治的転換を経験した。この間、過去にカンボジアで出版された歴史書が再版されるとともに、新たな歴史言説・叙述が登場した。国定歴史教科書の記述もたびたび書き換えられてきた。それらは政治アクターの関与が強いものだけでなく、フランス植民地時代に構築されたカンボジア史像に挑戦する試みも含むものであった。内戦終結後社会のナショナル・アイデンティティ構築、復権や新たな英雄創出に伴う歴史の政治利用、自国史像の脱植民地化といった重要なテーマを包摂するにもかかわらず、一部政治家の歴史利用を除いては十分に研究されていない。

本研究は、内戦終結以降のカンボジアにおける歴史書出版状況を整理し、その傾向を実証的に明らかにするとともに、インタビューを実施し、執筆を取り巻く環境の把握を行い、どのような歴史が書かれたかを明らかにする。これらは当時の政治状況と合わせて言説分析をすることで、内戦終結後社会のナショナル・アイデンティティ構築、復権や新たな英雄創出に伴う歴史の政治利用、自国史像の脱植民地化といった側面から現代カンボジア社会を描き出すことができる。


プレイベーン州国道8 号線沿いに建つスダチ・コン像

スダチ・コン伝承に関する聞き取り調査