VI-3.「聖(者)性への畏敬と憧憬:現代ミャンマーにおけるパオ仏教瞑想実践の意義」(平成30年度 FY2018 新規)


  • 研究代表者:川本佳苗(京都大学・東南アジア地域研究研究所)

研究概要

今日、ヴィパッサナー仏教瞑想に基づく「マインドフルネス」はビジネスや医療など様々な場で活用されている。19 世紀にミャンマーでヴィパッサナーが大衆化された一方で、集中力を習得するための禅定瞑想は軽視されていったが、本研究では、現代ミャンマーにおける禅定復興とも言えるPa-Auk(パーアゥッ)瞑想法の特徴に注目する。人々が実践し易さや実用性よりも、実践が難しいゆえに禅定に抱く憧憬や、戒律を厳守するパオ僧院の僧達の態度への畏敬といった「聖(者)性」に価値を置く様相を明らかにする。

研究目的

仏教徒の瞑想実践の動機には、教理の理解や実用的効果だけでなく、指導者の魅力(カリスマ性)も関わることが個人的交流を通じて分かっているため、更なる理解のためにパーアゥッ瞑想の実践者達が尊重する「聖(者)性」について聴き取り調査する。

研究目的は3 点に分類される:
1)ミャンマーの高僧レディ・サヤドー(1846-1923)が簡略化したヴィパッサナーによって、在家仏教徒も実践可能になるに至った瞑想実践の伝統を調査する。
2)ヴィパッサナーが 20 世紀ミャンマーにおいて国家的に推進され、同時に禅定が棄却された歴史的経緯を示す。
3)禅定を再評価したパオ・サヤドー(1934-)により普及したパーアゥッ瞑想法に対してミャンマー人と日本人が支持する動機や魅力を調査する。

意義

本研究ではミャンマー仏教徒の瞑想実践に対して、瞑想法や指導者がもつ聖(者)性が与える影響に注目した。また申請者もパーアゥッ僧院で出家し生活し、仏教と社会との関わりを体験した。

本研究によって、仏教瞑想という一つのミャンマー文化の現代的変化を提示する。

期待される効果

ミャンマーにおける特定の瞑想法の台頭は、一つの社会現象である。この現象の分析は、社会と人々の精神性・宗教性との関わりを理解する手助けとなる。本研究の成果は、宗教学・社会学・文化人類学などの他分野にも提供できる。さらに、瞑想と精神との関わりといった視点から、健康医学への橋渡しとなる見解も提供できる。


申請者、Brahma Vihari 寺院の庭にて

Brahma Vihari 寺院内の瞑想ホールの様子