VI-5.「東南アジア島嶼部における外来王と祭祀王に関する比較研究」(平成30年度 FY2018 新規)


  • 研究代表者:西島 薫(京都大学・学際融合教育研究推進センター)

研究概要

東南アジア島嶼部では、政体の起源を天界や海の彼方からやって来た外来者と在来の首長の娘との婚姻にもとめる事例が数多くある。沿岸地域には交易や軍事力によって政治的権力を掌握する外来王たちが存在してきた一方で、内陸部には外来王にたいして儀礼的に優越する祭祀王が存在してきた。従来の外来王論においては、外来王と祭祀王は緊張関係を内包しつつも相補的あるいは相互依存的な関係にあり、あたかも両者は一体のものであるかのように論じられてきた[Sahlins 2008; 2017]。しかし、在来者側の神話は外来者とは分離して存在している事例が多くあるものの、これまで研究の焦点が当てられてこなかった。

詳細

本研究目的は、東南アジア島嶼部の事例から外来王論を再考することで、外来王と祭祀王の競合的な関係を明らかにすることである。

西部カリマンタンのウルアイ王や北部スマトラのシンガ・マンガラジャなどの祭祀王の事例では、内陸部の人々の間で祭祀王が外来王とは独立した1 つの政体であるかのように語られる。申請者の調査する西部カリマンタンの外来王(マタン王)は、土地の首長の娘と婚姻することで王国を創始したが、土地の首長はウルアイ王だった。しかし、内陸部ではウルアイ王は在来の首長ではなく、太陽の昇る土地からやってきた外来王であるとされ、外来王とは独立した別の政体であるとされている。さらにウルアイ王はマタン王の謀略によってオランダ政府に拘束されたことが知られている。類似した状況は北部スマトラのバタック人たちの祭祀王であり周囲のムラユ系の王国に儀礼的に優越するシンガ・マンガラジャの事例にも見出せる。本研究では、外来王と祭祀王は相互補完的あるいは相互依存的な関係にあるのではなく、両者はむしろ分離した政体として競合的な関係にあったことを明らかにする。

期待される具体的な成果としては、第1 に、外来王と祭祀王が相互に独立した政体であることを明らかにすること、第2 に、祭祀王とされる王も時代状況の変化に応じて追従者の支持を集めることで政治的権力を握ることができることを明らかにすること、第3 に、外来王と祭祀王という二項対立的な分類自体が不要であることを明らかにすることがあげられる。

〈参考文献〉
Shalins, Marshal. 2008. “The Stranger-king or, Elementary Form of the Politics of Life.” Indonesia and the Malay World 36: 177-194.
__. 2017. The Atemporal Dimensions of History: In the Old Kongo Kingdom, for Example, In David Graeber and Marshall Sahlins eds., On Kings. Chicago: Hau Books, pp. 140-221.


西カリマンタン州のクリオ人たちによる収穫儀礼

西カリマンタン州のマタン王国王宮