IV-1.「東南アジア農村信用組合の資金余剰問題研究―金融市場への農村貯蓄の統合をめざして」(平成30-令和1年度 FY2018-2019 継続)


  • 研究代表者:大野昭彦(青山学院大学・国際政治経済学部)
  • 共同研究者:坂田正三(日本貿易振興機構アジア経済研究所・バンコク研究センター)
  • 須田敏彦(大東文化大学・国際関係学部)
  • 坂根嘉弘(広島修道大学・商学部)
  • Pham Bao Duong(ベトナム国立農業大学・経済学・農村開発学部)
  • Chansathith Chaleunsinh(研究コンサルタント(自営))
  • 藤田幸一(京都大学・東南アジア地域研究研究所)

研究概要

東南アジアでは、融資活動に専念するグラミン銀行型ではなく、貯蓄動員も伴う信用組合型の農村金融機関が主流となっている。この意味では、健全な農村金融市場が形成される芽がある。しかし一般にその金利水準は市中銀行より大幅に高く、それが金融市場の統合を制約する重要な要因となっている。本研究は、戦前日本と現代東南アジア数カ国の比較制度分析から、金融市場の統合の成否を左右する要因を、特に金利差問題に焦点を当てて検討する。

詳細

日本の経験からすれば、農村信用組合は、上部組織の設立を通じて組合間の資金融通が図られ、最終的には全国の金融市場に統合されることになる。しかし1990 年代末から発展したラオス農村信用組合は金利が市中金利(月約1%)よりも高い月3%程度で高止まりし、上部組織制度化の失敗もあって、貸出先が村内で枯渇した際、組合が村外事業家に貸し付け、不良債権化するという問題に直面した。日本の信用組合の金利は市中金利とほぼ同じであり、全国の金融市場との統合に大きな困難はなかったことと対照的である。ベトナムでは人民信用基金の金利は市中と大差なく、上部組織を介した資金融通やより広い金融市場に統合されつつある。またインドネシアでは、銀行金利が政策的に高く設定され、BRI(インドネシア国営銀行)によって動員された農村貯蓄が都市で投資される好循環が生まれた。なぜ、以上のような差が生まれるのか。

急速な経済発展のもと、東南アジアの農村部では資金余剰が生まれつつある。それを貯蓄として動員し、広範なセクターにおける投資につなげることは重要な政策課題となる。しかし、開発途上国の農村金融研究のなかでは、この分野は空白領域のままである。今回対象とする諸国では、金融市場統合の進捗に濃淡がみられる。農村構造の差を含む比較制度分析から、この未踏破の課題に迫ることは、研究のみならず政策的にも意義があるといえよう。

 


ラオスの信用組合 貸出・返済を記帳する書記係の様子

ラオスの信用組合 毎月開催される与信・返済日の様子