IV-2.「東南アジア諸国における殉職兵士の扱いと安全保障政策への影響に関する比較研究」(平成30-令和1年度 FY2018-2019 継続)


  • 研究代表者:安富 淳(宮崎国際大学・国際教養学部)
  • 共同研究者:Pavin Chachavalpongpun(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 木場紗綾(公立小松大学・国際文化交流学部)
  • Terence Lee(シンガポール国立大大学・政治学部)
  • Rosalie Arcala Hall(フィリピン大学ビサヤ校・政治学部)
  • Eyal Ben-Ari(キネレット大学・社会安全保障平和研究所)

研究概要

本研究では、1)東南アジア諸国の各国政府が国軍の殉職兵士をどのように扱ってきたか、2)その扱いが、各国の安全保障政策(とりわけ対テロ対策や国連PKO などの海外ミッション)の形成にどのような変化をもたらしてきたか、3)各国の政策の変化の特徴が異なる要因はなにか、という問いを設定し、比較研究を実施する。フィリピン、インドネシア、シンガポール、タイの4 カ国を対象とし、それぞれの国を専門とする研究者の間で研究会を開催し、将来的には共同での現地調査を視野に入れる。

詳細

本研究は、フィリピン、インドネシア、シンガポール、タイといった東南アジア諸国において、各国軍の国内外の作戦中に発生した殉職者(戦闘死、事故死、自死を含む)とそれに対する政府の対応が、それぞれの安全保障政策(とりわけ対テロ活動をはじめとした国内治安対策および国連PKO などの国際平和協力活動)にどのような変化をどの程度もたらしたのかを明らかにし、各国の相違・共通点を比較し、その要因を分析する。

軍隊の国内外での任務中における兵士の殉職は不可避な事象である。上記対象国においては、従来は、兵士の命が西側民主主義諸国に比して「軽く」扱われていた。しかし近年では、メディアの高度な発達や人権意識向上に伴い、兵士の死に対する軍隊および国民の受け止め方が大きく変化しつつある。少子高齢化の進む諸国では、殉職兵士の名誉や社会的・金銭的補償が十分担保されないならば、入隊者数の減少に繋がり、その分兵士一人ひとりの負担が増加し、士気が低下して、全体の能力低下に繋がる。

本研究は、各国において、1)政府による殉職兵士の扱いがどのように変化してきたか、2)それによって軍および軍の活動に対する国民支持はどのように変化したか、また、国内治安・国際平和協力活動を始めとする安全保障政策はどのように変化したか、3)各国の対応を分ける主要な要因は何か、という3 つの問いを設定し比較研究を実施する。

政府にとっても軍にとっても、殉職者とその家族に対する待遇を改善することが、国民からの支持を維持し、安全保障政策を確実に安定的に遂行していく上での重要な戦略のひとつとなっていくであろう。対テロ戦争の時代において、アジア諸国は自国兵の死をどう受け止めるのか。NATO 加盟国のように、他国の戦争や対テロ活動に参加して犠牲を出すことを政治家はどのように国民に説明するのか。社会的需要は進むのか。本研究は、今後のアジア社会が抱える政治的および社会倫理的な議論に一石を投じる機会を提供する。

 


カリバタ英雄墓地(ジャカルタ)

殉職者慰霊碑(タイ軍事史博物館)