IV-5.「インドネシアにおける宗教による平和と共生の模索」(平成30-令和1年度 FY2018-2019 継続)


  • 研究代表者:野中 葉(慶應義塾大学・総合政策学部)
  • 共同研究者:北村由美(京都大学・附属図書館)
  • 佐々木拓雄(久留米大学・法学部)
  • 蓮池隆広(専修大学・法学部)
  • 岡本正明(京都大学・東南アジア地域研究研究所)

研究概要

本研究では、グローバリズムが進む中、宗教を理由とした分断がすすむ世界的潮流に対して、世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシアを例に、宗教による安定と平和への貢献を検証する。具体的には、1960 年代後半に始まるスハルト体制下から現在までの宗教による安定と平和をめぐる言説の整理と、国家による対宗教政策、各宗教徒による平和と共生を目指す宗教実践の調査を行う。これにより、グローバル環境において暴力と安定・平和という相反する目的の根拠となる宗教のローカルな文脈を言説分析とフィールドワークの双方から検証し、理論化をはかる。

詳細

本研究の目的は、グローバリズムが進む中、宗教を理由とした分断がすすむ世界的潮流に対して、世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシアを例に、宗教による安定と平和への貢献を検討することである。インドネシアはイスラーム大国であり、国是において「唯一神の信仰」が規定されているが、世俗的な政治体制下で、6 大宗教を国家による公認宗教と規定し、それぞれを平等に尊重する姿勢を示してきた。インドネシアにおいて宗教は、様々な政治体制の中で、常に大きな政治的役割を担ってきた。一方、グローバル化が進む現代、人や資本の移動が複雑化すると同時に文化・宗教・思想が国民国家の版図を超えて共有されるようになった。アパドゥライは、このような変化が国際的なテロと国内におけるマジョリティによるマイノリティへの暴力へと転化する要因でもあることを指摘しているが、インドネシアも例外ではない。本研究では、グローバル環境において暴力と安定・平和という相反する目的の根拠となる宗教のローカルな文脈を言説分析とフィールドワークの双方から検証し、理論化をはかる。

民主化後のインドネシアでは、特に2000 年代後半以降、イスラームの「保守化」や「正統化」の傾向が強まっているとされ、少数派や異質なものに対する排除や抑圧、社会的分断に研究者の注目が集まっている。一方、インドネシアの6 大宗教は、それぞれを専門とする研究者により個別に議論されてきた。イスラーム研究の中では、宗教間の対話や寛容さを通した国家の安定と平和に関する研究業績がみられるが、主に、ムスリム社会内部の諸グループの見解の違いなどが強調されてきた。本研究は、キリスト教、イスラーム、仏教、儒教をそれぞれに調査してきた研究者が集まり、宗教間の協働や共生、平和に向けた取り組みに注目することで、各宗教の研究分野に新しい知見を提示し、またインドネシア社会における異なる宗教間の共生の可能性を提示する。

本研究の実施により期待される成果は以下の2 点である。
1)グローバル時代における6 大宗教をめぐるローカリティの実証研究 本研究は、インドネシアを事例に、グローバルな環境における宗教のローカリティまたはローカル・ノレッジの生成過程の実証と再理論化を行う。具体的には、宗教による安定と平和に向けた役割に着目し言説分析とフィールドワークを通じて、グローバル時代における6 大宗教をめぐるローカリティの諸相を実証的に明らかにする。
2)マジョリティの言説に偏らない新たな分析枠組みの提示

インドネシア研究においては、多数派を占めるイスラームの「保守化」傾向、少数派や異質なものに対する排除や抑圧に注目が集まってきた。宗教間の対話や寛容さを通した国家の安定と平和については、イスラーム研究の中に研究業績がみられるが、主に、ムスリムの諸グループの見解の違いなどが強調されている。本研究は、キリスト教、イスラーム、仏教、儒教をそれぞれに調査してきた研究者が集まり、宗教間の協働や共生、平和に向けた取り組みに注目することで、マジョリティの言説に偏らない新たな分析枠組みを提示する。

 


ジャカルタのイスラーム寄宿学校プサントレン・ダルンナジャ 女子生徒たちの早朝のクルアーン読誦の様子

儒教の宗教施設で日曜日の礼拝をするこども達(インドネシア・西ジャワ州チビノン)