III-1. 「資料分析に基づいたスペイン植民地期フィリピン社会経済に関する基礎研究」(令和1-2年度 FY2019-2020 継続)


  • 研究代表者:菅谷成子(愛媛大学・法文学部)
  • 共同研究者:清水 展(関西大学・政策創造学部)
  • Ambeth R. Ocampo(アテネオ・デ・マニラ大学・社会科学部)
  • Mario Lopez(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • Caroline Hau(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 芹澤隆道(京都大学・東南アジア地域研究研究所)

研究概要

本研究の目的は、太平洋貿易の結節点かつアジア地域間貿易の輻輳地としての再定位を目指していた、18 世紀後葉〜19 世紀中葉のスペイン領フィリピンの社会経済的変容の解明にある。その一環として、著名なフィリピン史研究者アンベス・オカンポ教授(アテネオ・デ・マニラ大学)による当該期文献の資料評価をもとに東南アジア地域研究研究所図書室にスペイン植民地期フィリピン資料を招来し、初学者および若い世代のフィリピン研究者向け文献解題を編纂・公開し、同図書室既蔵フォロンダ、オカンポの 2 大コレクションと共に当該期研究の資料的活用基盤を拡充する。

詳細

近年のフィリピン史研究は、アメリカ支配の約 40 年間がフィリピン社会に何をもたらし、現地社会がどのように反応してきたのかを中心に展開されてきた。これに対して、本研究では、太平洋貿易の結節点かつアジア地域間貿易の輻輳地としての再定位を目指していた、18 世紀後葉〜19 世紀中葉のスペイン領フィリピンが、いかなる経済的特徴をもち、どのように変容したのか、主として当該期に刊行されたスペイン語・中国語等文献の分析・資料研究によって、その一端を解明することを目的とする。当該期のフィリピン社会経済史研究は、世界経済史のさらなる研究展開を図るためにも重要である。

近年スペイン領フィリピンに関する研究は、スペイン語資料の探索・読解が必須のため、国内外を問わず研究者が減少している。 そこで本研究は、特に日本国内の初学者および若い世代のフィリピン研究者が、当該期のフィリピン社会経済史研究を進めるための基盤整備も目指している。具体的には、スペイン語資料に造詣の深いオカンポ教授をはじめとするフィリピン研究者と協働で、当該期を中心とするフィリピン史研究に資する文献資料の評価を行い、東南アジア地域研究研究所図書室にその一部を招来し、同図書室既蔵のフォロンダ、オカンポの2大コレクションと併せて当該スペイン語資料を活用するための文献解題を編纂・公開する。

昨年度は 22 冊のスペイン植民地期フィリピン史料を選定・購入した。19 世紀後半〜20 世紀初めにかけて刊行されたものを中心に、うち 19 冊がこれまで国内に所蔵されていなかった史料である。スペイン植民地期フィリピン研究は国内外を問わず研究者が減少しており、史料自体も市場に出回らないため史料選定リスト作成は予想以上に困難を極めた。今回購入した史料情報は、京都大学OPAC上で公開している。今年度は、フィリピン研究者間において、収集したレターナやフィリピン革命に関する資料に関して意見交換を行い、19 世紀後半のフィリピン史研究のいっそうの進展を試みる。

 


1850 年代頃作成と推定されるイロカノ語祈祷書

銀縁で装飾製本され、イロコス州都ビガンで上流階級女性が使用していた