III-2. 「ミャンマーの地方社会および少数民族による刊行物の収集と出版状況の分析──草の根多元主義を考える」(令和2年度 FY2020 新規)


  • 研究代表者:和田理寛(神田外語大学・アジア言語学科)
  • 共同研究者:Patrick McCormick(独立研究者)
  • Noemi-Tiina Dupertuis(京都大学・大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
  • 菊池泰平(大阪大学・大学院言語文化研究科)
  • 大野美紀子(京都大学・東南アジア地域研究研究所)

研究概要

ミャンマーでは地方社会や少数民族の人々の手によってどのような出版物が編纂・執筆されているのか。 本研究は、その現状を明らかにするために、公用語であるビルマ語に加え、少数言語で書かれた地方と少数民族に関する出版物を収集する。また、これら資料の作者、流通、内容の傾向を分析し、ミャンマーの地方社会・少数民族による出版状況の特徴を浮かび上がらせる。 収集した出版物は、京都大学東南アジア地域研究研究所図書室に招来する。

詳細

本研究の目的は、ミャンマーの地方社会や少数民族のコミュニティー内部で編纂・刊行されてきた出版物の収集を行い、出版状況を分析することである。地方社会や少数民族の人々が自らの手でまとめた刊行物は、日本国内はもとより、ミャンマー国内の図書館でも網羅的に収集されてこなかった。しかしこうした刊行物は、各印刷数こそ小規模であるものの、インドシナ半島西域の地方史、民族、宗教、言語などの研究発展に資する重要な資料である。2011 年の「民政」移管以降、検閲制度が廃止され、出版ブームともいえる状況のなかで、今、こうした資料を集め保管しておくことは、長期的にみて、日本国内外の研究者をはじめ、ミャンマーの人々にとっても有益と考える。

また少数言語資料はミャンマーの多様性の将来を占う鍵でもある。本研究では、少数者の自発的な出版活動を「草の根多元主義」と位置づけて注目したい。現在、ミャンマーでは、少数言語教育が民族政治や教育政策の争点の 1 つとなっているが、それをアイデンティティ・ポリティクスの次元に限定して論じるだけでは不十分だろう。そうした政治的容認のレベルだけでなく、少数言語による書籍が、実際に生きた言語として、どこで誰によって書かれ、売られ、買われ、配布され、読まれているのか、こうした実態を明らかにすることもまた、ミャンマーの多言語・多民族状況を把握するために不可欠な作業である。本研究は、資料収集時のインタビューを通して、少数言語文献の作成および流通の過程に関する概要も明らかにしていきたい。

 


チン州ハッカにあるチン・キリスト教コミュニケーション協会本部(ライ語書籍販売の中心)

モン州の仏教僧院で販売されているモン語書籍(住職による著作)