IV-6. 「世界遺産アンコールをめぐるグローバル規範再考──地域情報学による在来知の発掘」(令和1-2年度 FY2019-2020 継続)


  • 研究代表者:丸井雅子(上智大学・総合グローバル学部)
  • 共同研究者:小林 知(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 小坂康之(京都大学・大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
  • Im Sokrithy(アプサラ機構・アンコール研修センター)

研究概要

20世紀末、文化遺産の新たな普遍的価値として不動産のみならず周辺村落も含めた「景観」という概念が加わり、以後のグローバル規範を方向づけた。アンコール遺跡のユネスコ世界遺産登録(1992 年)が契機であるとされる。いま、これら「文化遺産保護」と「景観保護」の二大規範は再考を余儀なくされる局面を迎えている。 本研究は、アンコール地域の住民が継承してきた在来知の中にこそ、次世代が目指す文化遺産及び景観保護の向かうべき姿があるという前提に立ち、人々による土地利用と営みの歴史的動態を地域情報学の手法から明らかにする。

詳細

21 世紀以降のカンボジア政府による「アンコール時代の景観を回復する」ことを目的とした大規模な土地開発の多くは、地域住民による合意未形成のままに進行している。景観復元に関する正義や公正性は何処にあるのかという問いが、本研究の主題である。 従来の「景観」概念に欠けている「地域住民と土地との関わり合いを歴史的展開の中で分析する視点と手法」に基づき、アンコール遺跡地域に焦点を当て、学際的な共同チームにより 1)航空写真のモザイク化と空間情報の復元、2)人びとの記憶や記録に基づく営み(土地利用)の復元、を試みる。最終的には地域住民による土地利用と資源管理等の環境との関わり合いの歴史的動態及び継承されてきた在来知を明らかにすることを目的とする。

地域が意識的もしくは無意識に継承してきた在来知を顕在化させることが可能となる点、さらにこうした在来知が、文化遺産保護にとって考慮すべき要素であることを提示する点に、本研究の意義がある。

文化遺産と地域社会の相互の持続可能な共生の提案にとって有効な視点と手法が、地域研究に基づく学際的な研究によって開発される。さらに、景観復元の正義や公正性への問い直しを通じ、政策実行側(官)と、コミュニティの住民(民)を組み込んで創造的に地域の将来を構想することが可能となり、本研究を足掛かりとして、これまでとは異なる官・民・学の連携促進が期待される。

初年度(令和 1 年度)は、現地調査を通じてアンコール遺跡地域の異なる自然環境に拠る①高台平原、②中央域、③洪水域の 3 地区集落を訪問し、生業や土地利用の現状を聞き取りした。過去に研究代表者及びカンボジア側共同研究者が、それぞれ実施していた集落における聞き取り調査等のデータと比較し、経年変化を追うことが出来る材料を収集した。2年目となる今年度は、1)前年度調査収集資料の整理とデータ化、2)一部統計資料の英語翻訳(原語はカンボジア語)、を進めると同時に、3)対象地区の住民への聞き取り調査(カンボジア共同研究者が担当)、4)年代の異なる複数の航空写真を基に調査対象域のオルソ画像を作成し、収集資料を地理情報システムに落とし込んでいく、等の調査と作業を計画している。

 


湖の貝殻を原料に、遺跡修復用漆喰を作る家族

盆の終わりに、バナナの幹で作った小舟が川に流される