IV-7. 「移動者がホームにもたらすもの──中国と東南アジアにおける人口移動と送り出し社会の変容」(令和1-2年度 FY2019-2020 継続)


  • 研究代表者:堀江未央(岐阜大学・地域科学部)
  • 共同研究者:黄 潔(愛知大学・国際中国学研究センター)
  • 阿部朋恒(立教大学・異文化コミュニケーション学部)
  • 包 双月(東北大学・大学院文学研究科)
  • 速水洋子(京都大学・東南アジア地域研究研究所)

研究概要

本研究は、現代中国および中国と近接する東南アジア諸国のあいだで起こる、グローバル化と経済格差に起因する労働移動および婚姻移動に着目し、人々の常態化する移動が送り出し社会にもたらす影響について、生業、宗教、文化、言語、民族などの側面に着目しつつ、ミャンマー、中国南部、中国西南部、タイ国など複数地域の事例から比較検討するものである。現代的移動に見られる諸特徴(定住化と循環型移動、グローバルな経済格差との関わり)が、それ以前の移動とは異なるいかなる影響を送り出し社会にもたらしているのか、地域間比較を通して明らかにする。

詳細

本研究の目的は、中国、タイ、ミャンマー各地における市場経済の浸透や地域間経済格差の拡大にともなって進展する人口移動が送り出し社会に与える影響を明らかにすることである。繰り返される人の往来や常態化する人の不在が、ローカルな社会を成り立たせるうえでの生業、宗教、文化、言語的基盤や民族意識をいかに変容させているのか、地域間比較を通して検討する。

本研究の意義は、主として経済原理に基づいて論じられてきた人口移動を、送り出し社会のローカルな論理をもとに再考することにある。これまでも、個人が移動に至る経緯やそれを支えるコミュニティの役割に着目した議論はなされてきたが、移動経験の蓄積が送り出し社会に何をもたらし、変容させてきたのかを具体的に掘り下げた研究は多くない。本研究では、そうした社会変化を民族誌的に記述するのみならず、華人華僑研究などの研究実績と照らし合わせつつ、中国と東南アジアにおける研究動向の相違を踏まえた比較研究を行い、政治・経済のマクロな制度的側面に起因する影響との関連を明らかにする。

本研究によって期待される成果は、第一に、現代中国の人口移動研究への人類学的貢献である。中国の人口移動の問題は計量的に論じられることが多く、質的な研究も未だ数が限られているため、各地域のローカルな論理の蓄積として描きなおす本研究の作業を通して、中国の人口移動のもたらすインパクトを文脈化できる。 第二に、中国に隣接する東南アジア大陸部における人口移動の研究事例を、中国の影響との関連性でとらえなおすことである。

 


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