VI-3. 「在バンコクベトナム寺院漢喃経典を用いた近代東南アジア大乗仏教の批判的考察」(令和2年度 FY2020 新規)


  • 研究代表者:亀谷隆彦(龍谷大学・世界仏教文化研究センター)

研究概要

東南アジア仏教の主流はスリランカの大寺派から分岐した上座部仏教だが、同地域の仏教国に上座部以外の仏教の伝統が存在しないわけではない。例えばタイのいくつかの寺院には、中国やベトナムから輸入された大乗仏教経典・儀軌が少なからず保管される。バンコクの景福寺(Wat Samananam Borihan)から東南アジア地域研究研究所に伝わった大乗仏教漢喃経典コレクションもその一つで、本研究ではこのコレクションの調査を通じて、近代東南アジアに伝わる大乗仏教の実態解明に取り組む。

詳細

本研究の目的は、近代東南アジアで信仰された大乗仏教の思想的特質および歴史的意義の解明である。その目的を達成するため、 19 世紀以降ベトナムからバンコク景福寺に伝わった大乗仏教漢喃経典コレクションの包括的調査を行い、タイ国内の仏教コミュニティにおいて、本コレクションがいかなる機能・役割を担ったか考察する。

東南アジアの仏教といえば、11~14 世紀にスリランカから伝わった大寺派系上座部仏教が先ず想起されるが、ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオスといった同地域の「仏教国」に、上座部信者以外の仏教徒が存在しないわけではない。例えばタイの場合、ベトナム系の大乗仏教と中国の禅仏教がそれぞれ 18 世紀末と 19 世 紀に流入し、その寺院が今も各地に点在する。そこでは漢訳経典と儀軌を用いる僧が、主に無病息災のような現世利益の祈願に従事している。景福寺の漢喃経典コレクションも、このような背景を受けて成立したと推測される。

しかし、東南アジア大乗仏教は宗教・政治の両面で周縁的な存在であるためか、先行研究も非常に少なく、タイの大乗の伝統に関しては、そこで暮らすベトナム人や華僑の心の支えであったことは指摘されても、その先の込み入った思想背景や歴史的意義は今も詳らかではない。本研究では、このような先行研究の問題点を踏まえて、大乗仏教漢喃経典コレクションの調査に取り組む。先ずはこの点に、本研究の独自性と意義が認められると考える。

 


京都大学東南アジア地域研究研究所(CSEAS)における調査活動の様子

故桜井由躬雄氏請来の在泰京越南寺院景福寺所蔵漢籍字喃資料の一部