VI-4. 「『ワールドミュージック』のなかのインドネシア音楽──日本の音楽評論家たちの言説分析」(令和2年度 FY2020 新規)


  • 研究代表者:金 悠進(国立民族学博物館)

研究概要

本研究の目的は、「ワールドミュージック」時代に活躍した日本の音楽評論家たちの「インドネシア音楽」観を再検討することである。1980 年代から1990 年代前半にかけて「ワールドミュージック」という言葉が、日本を含む西洋圏(西洋的まなざし)において、非西洋圏の音楽を包括する名称として音楽メディア上で使われてきた。本研究は、「ワールドミュージック」時代に東南アジア諸国の中で最も高く評価されたインドネシア音楽を事例に、日本の音楽評論家たちの雑誌メディア空間の言説を分析するものである。

詳細

クロンチョンやダンドゥット、ガムラン、ジャイポンなど土着的な音楽スタイルが「インドネシア独自の音楽文化」として国内外で評価されてきた。西洋圏の中でもいち早く日本の音楽評論家たちは、インドネシアの音楽文化を高く評価し、とくに上記ジャンルを日本国内に広めていった。なぜ東南アジア諸国の中でも特にインドネシア音楽に魅力を感じ、いかにして日本国内の音楽メディア空間で価値付けていったのか。本研究では、1980 年代から 1990 年代前半の日本の評論家や音楽家たちが、「インドネシア音楽とは何か」を外的に定義付けていく過程をインドネシア国内の文脈と照らし合わせながら明らかにしていく。

従来の研究は、インドネシア音楽を「ワールドミュージック」の一事例として扱ってきた。しかし、それらの研究はインドネシア国内の多様な音楽事情や歴史的文脈を捨象した形で論じられてきた。本研究では、日本の音楽評論家がインドネシア音楽のいかなる側面を評価し、反対に評価しなかったのか(時に排除してきたのか)を分析し、インドネシア音楽の国内外での評価の差異を明らかにする。さらには、日本だけでなく英語圏のインドネシア音楽認識との比較や日本のワールドミュージック観におけるインドネシア音楽の位置づけを明らかにする。上記分析は、東京オリンピックを見据えた近年の東南アジアのポップカルチャーに対する日本国内メディア・国際文化交流団体における評価の高まりにおいて、ローカルな文脈でいかなる側面が評価・排除されているのかを検討する上で現代的意義が大きい。

 


インドネシア音楽博物館レコードコレクション

中村とうようのインドネシア音楽コレクション(中村とうようコレクションデータベースより)