III-1. 「ミャンマーの地方社会および少数民族による刊行物の収集と出版状況の分析──草の根多元主義を考える」(令和2-3年度 FY2020-2021 継続)


  • 研究代表者:和田理寛(神田外語大学・外国語学部アジア言語学科)
  • 共同研究者:Patrick McCormick(独立研究者)
  • Noemi-Tiina Dupertuis(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 菊池泰平(大阪大学・大学院言語文化研究科)
  • 大野美紀子(京都大学・東南アジア地域研究研究所)

研究概要

ミャンマーでは地方社会や少数民族の人々の手によってどのような出版物が編纂・執筆されているのか。本研究は、その現状を明らかにするために、公用語であるビルマ語に加え、少数言語で書かれた地方社会と少数民族に関する出版物を収集・分析する。昨年度、本研究はミャンマーから600 点以上の資料を収集し、京都大学東南アジア地域研究研究所図書室に招来することができた。本年度はこれら資料について、作者、流通、内容の傾向を分析し、ミャンマーの地方社会・少数民族による出版状況の特徴を浮かび上がらせる。

詳細

本研究の目的は、ミャンマーの地方社会や少数民族のコミュニティー内部で編纂・刊行されてきた出版物の収集を行い、出版状況を分析することである。地方社会や少数民族の人々が自らの手でまとめた出版物は、日本国内はもとより、ミャンマー国内の図書館でも網羅的に収集されてこなかった。しかしこうした出版物は、各印刷数こそ小規模であるものの、インドシナ半島西域の地方史、民族、宗教、言語などの研究発展に資する重要な資料である。ミャンマーは、2011 年の「民政」移管以降、検閲制度が廃止されて出版活動が活性化したものの、2021 年2 月からは政情不安に陥り、今後の見通しが全く見えない状況にある。こうした今、2021 年以前に出版された地方社会および少数民族関連の資料を集め保管しておくことは、長期的にみて、日本国内外の研究者をはじめ、ミャンマーの人々にとっても有益であろう。

また少数民族の自発的な活動によって出版されている少数言語の書籍は、出版言語を介した民族意識の広がりや、シンボリックな言語教育にとどまらない生きた言語としての使用状況を明らかにするうえで重要な資料である。これら少数言語資料は、閉じられたネットワークのなか、どこで誰によって何が書かれ、売られ、買われ、配布され、読まれているのか。昨年度にひきつづき今年度も現地調査が難しい状況であるが、幸いにも昨年度は現地の方たちの協力のおかげで600 点をこえる資料をミャンマーで購入し日本に招来することができた。このうち約9 割以上が少数言語で書かれた出版物である。今年度は、これら貴重な資料をもとに、上述した少数言語書籍の制作と流通のネットワーク、および内容の傾向について明らかにし分析を行う。

 


シャン語の本(小説 、詩、エッセイほか)

9 つの少数言語で書かれた約600 点の出版物(2020 年度にミャンマーで収集)