IV-14.「現代フィリピンにおける『社会と個人』の限界と潜在力──フィールドからの理論と検証」(令和3年度 FY2021 新規)


  • 研究代表者:白石奈津子(大阪大学・大学院言語文化研究科)
  • 共同研究者:原 民樹(千葉商科大学)
  • 西尾善太(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 日下 渉(名古屋大学・大学院国際開発研究科)
  • 久保裕子(東京大学・大学院総合文化研究科)
  • 田川夢乃(広島大学・大学院国際協力研究科)
  • 中窪啓介(東京農業大学・国際食料情報学部)
  • 藤原尚樹(大阪人間科学大学)
  • 宮川慎司(東京大学・大学院総合文化研究科)
  • 師田史子(京都大学・大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
  • 吉澤あすな(京都大学・大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
  • Mario Lopez(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 飯田悠哉(京都大学・大学院農学研究科)

研究概要

本研究は「新自由主義的統治性の浸透」「新自由主義的価値観の内面化」として論じられる近年のフィリピン社会の様々な変動について、共同研究分担者が個々の長期フィールドワークで得た事例や知見をもとに批判的に再考する。その議論を通じ、「新自由主義の席巻」という単色的視点では把握できない現代フィリピンの社会変化の複雑性、重層性を明らかにすると同時に、 同現象を捉える新たな視座を提示することが本研究の課題である。

詳細

新自由主義の急激な台頭と、それが生み出す不平等や暴力への批判は、近年、グローバル· サウス全体での社会変動を捉える議論として重要な位置を占めている。同時に、そうした事象の現れは同じ「新自由主義」という概念で一括りにされながらも、欧米社会における個人の断片化と匿名性の進行という状況とは異なる形で進行していることが指摘される。

世界有数の移民送出国であるフィリピンは、マクロ・ミクロ様々な次元でグローバル経済に深く巻き込まれた社会であり、前述のような変化が多様な局面に現出する社会でもある。本研究はそのフィリピンを対象と定めた上で、政治経済、開発、都市、村落、移動、性と生殖、信仰といった様々なテーマを扱う分担者による長期フィールドワークの成果から「新自由主義」をめぐる議論、概念を批判的に解体する。その作業を通し、フィリピンにおいて「新自由主義的統治性の浸透」「新自由主義的価値観の内面化」として語られがちな大勢の変化を、制度や主体の再構築過程の詳細な検討から捉えなおす。

本研究が目指すのは、新自由主義によるネガティブな影響への対処というグローバルな共通課題への検討であり、フィリピン研究で蓄積されてきた「社会と個人」をめぐる既存の議論に対する批判的再検討でもある。また、本研究による上述の議論の成果は、個人の断片化や国家・コミュニティを基盤とした社会システムの限界が取りざたされる日本社会に対しても、様々な示唆を与えることが期待される。

 


オンライン形式で行った研究会の様子(2021 年8 月)

ハイブリッド形式で行った研究会の様子(2021 年9 月)