IV-5.「東南アジア民間信仰論の新たな展開に向けて──森幹男とアヌマンラーチャトンの研究成果の価値の再発見」(令和2-3年度 FY2020-2021 継続)


  • 研究代表者:黄 潔(名古屋大学・高等研究院)
  • 共同研究者:片岡 樹(京都大学・大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
  • 中西裕二(日本女子大学・人間社会学部)
  • 北澤直宏(京都大学・大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
  • 津村文彦(名城大学・外国語学部)
  • 奈良雅史(国立民族学博物館・超域フィールド科学研究部)
  • 小林 知(京都大学・東南アジア地域研究研究所)

研究概要

本研究は、20 世紀から現在にかけて東南アジア大陸部の基層社会に現れる既存の土着信仰と外来宗教の習合現象を解明するものである。本研究は、まず東南アジア民俗研究の先駆者である森幹男とアヌマンラーチャトンの一連の研究成果の価値を検討して、そこから受けたヒントをもとに各メンバーが自身の調査研究を進めていく。それらに基づき、東南アジア大陸部各国において、既成宗教の枠に収まらない民間信仰の活力を、土地神祭祀、霊媒祭祀、予言者崇拝など様々な側面から縦横に明らかにすることによって、東南アジア民間信仰研究を新たに展開させる。

詳細

本研究の目的は、タイをはじめ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、中国華南などの各地で現れる民間信仰の習合現象や現代的展開を事例とし、これを20 世紀から現在にかけての、東南アジア大陸部の基層社会に共通する現象と位置づけて、土着信仰と外来宗教の習合・混淆状況などの民間信仰の動態を明らかにすることである。

東南アジア大陸部における民間信仰は、これまではシンクレティズム論に基づく、仏教と下級精霊祭祀との階層的な機能分業の静態的な図式で把握されてきた。近年では、こうした静態的な図式を乗り越え、仏教徒社会における非仏教的要素がもたらすダイナミクスに注目する研究も行われ始めている。しかしこれらの研究は、仏教に潜む非仏教的要素との併存を論じるのみで、民間信仰の内実を十分に探究していない。こうした背景を踏まえて、本研究は各国の民俗宗教現象を具体的に解明することを通じて、20 世紀以降あまり進んでいない東南アジアの民間信仰についての研究を大きく進展させるものである。

本研究は、森幹男とアヌマンラーチャトンが先鞭をつけて以来手つかずに放置されていたこの研究領域の重要性を改めて訴えるものである。また東南アジア諸国の事例をとりあげ、各国に共有される基層文化の諸相を解明するとともに、各国で展開される、既存仏教や外来移民宗教や国家権力との交渉が生みだす民間信仰の動態を比較することで、東南アジア域内に共通する信仰のあり方や、各国における宗教の特徴を明らかにすることをめざす。これらにより、東南アジアにおける民間信仰マッピングが基礎データとしてできあがると期待される。

 


タイのチェンマイ市内に居住しているタイ・ヤイ(シャン)の人々が、ミャンマーの伝統的な仏教行事であるタディンジュ満月の祭りを準備している

タイのチェンライ県には国境を越えて移住してきた中国雲南のタイ・ルー人が新たに形成した村があり、村の中には出身地より持ち込まれた守護霊の廟が設けられ、祀られている