IV-6.「タイ東北部の伝統的ケアの変容──高齢者ケアを担う家族に対する質的研究」(令和2-3年度 FY2020-2021 継続)


  • 研究代表者:渡辺 長(帝京科学大学・医療科学部)
  • 共同研究者:Jiraporn Chompikul(マヒドン大学・アセアン保健開発研究所)
  • Nuanpan Pimpisan(ナコンラチャシマ病院)
  • Onchuda Kumporn(シリラージ病院)
  • 河森正人(大阪大学・人間科学部)
  • 木村友美(大阪大学・大学院人間科学研究科)
  • 坂本龍太(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • Kwanchit Sasiwongsaroj(マヒドン大学・アジア言語文化研究所)
  • 石本恭子(川崎医療福祉大学・医療技術学部)

研究概要

タイは、1980 年代に経済的・政治的・文化的な変動に国家的体制が追い付かない状況で急速に発展した「圧縮された近代」を経験し、福祉国家を構築する十分な時間や富の蓄積が得られないまま少子高齢化社会に突入した。そのためタイ政府は家族ケアに対し、補足性の原理の立場を固持しており、一義的ケアの責任は家族介護者が全て担っている。本研究では、タイの高齢者ケアを担う家族介護者が抱える介護負担感、及びそれが生成・経験されるプロセスの実態を質的に分析し、日本とタイにおける相互の共通性と特殊性を明らかにすることで、双方に還元可能な支援政策を確立することを目指す。

詳細

介護保険財政が逼迫し、家族介護者の負担が深刻化している日本では、インフォーマルケアの活用のあり方が争点となっている。そこで本研究では、インフォーマルケアによる相互扶助が強固であると考えられているタイ東北部に焦点をあて、家族介護者と要介護者との関係性を概観し、高齢者介護の担い手が抱える問題に対する有効な支援政策の構築を目指すと共に、日本における家族介護支援に資する知見を抽出することを目的とする。具体的には、1)質的調査を中心にタイの高齢者介護の様相を描き出すことによりケアアクターの役割分担を整理し、2)家族介護者の介護負担感、及びそれが生成・経験されるプロセスを明らかにすることで、3)高齢者介護の担い手の実態と変容から日本とタイにおける相互の共通性と特殊性を明らかにし、双方に効果的な支援政策を確立する。

本研究の意義は、これまでブラックボックスとされてきたタイの要介護者を起点とするケアの広がり(役割分担)や伝統的介護観、及び介護負担感の構成要素と影響要因が明らかとなることである。本成果に基づき、個人と地域保健センターに結果説明と支援策の具体的助言を行う。また、本研究に関連する最低1 本の学術論文と1 回の学会発表を実施する。更に得られた知見から日本の介護者支援政策に資する要素を実践研究(日本の介護者への実践と効果測定)へと繋げていく。コロナ禍においては、オンラインでの研修会の開催などで、本研究で得られた知見の共有も図っていく。

 


2019 年8月にナコーンパトム県にてタイの高齢者に対する調査を実施した際の写真。数年毎に同じ対象者に対する追跡調査を実施しており、高齢者の心理や身体状況の経時的変化を追っている。

コロナ禍で現地訪問ができないため、オンラインでのミーティングを定期開催し、現地委託によるデータ収集の方法や、次年度以降の研究計画について議論を重ねている。