VI-3.「インドネシアと日本における薬用植物利用の比較研究──旧王都近郊の薬草産地の事例」(令和3年度 FY2021 新規)


  • 研究代表者:杉野好美(京都大学・大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

研究概要

本研究は、インドネシアと日本の旧王都近郊の薬草産地における薬用植物利用の変遷、両地域の比較を行う。インドネシアでは伝統的薬草療法「ジャムウ(jamu)」があり、ジャワ島旧マタラム王国から庶民へ広まった一方、日本では文化の中心であった京都が伝統医療に影響をもたらしてきた。近年、慢性疾患や精神疾患の増加により、全人的なヘルスケアが見直されている。そこで、文献蒐集と現地調査から、両地域の比較を行い、王都が現代の薬用植物利用に与えた影響を明らかにする。

詳細

本研究は、インドネシアと日本の旧王都近郊の薬草産地における人々の薬用植物利用の変遷の調査とそれらの比較を行い、王都が現代の薬用植物利用に与えた影響を明らかにする。両地域は異なる環境下にありながら、アジアの旧王都近郊の薬草産地という共通性を持ち合わせている。本研究は、文献蒐集と現地調査を通し、提供者や利用者、政策(王都)の観点から薬草利用の実態を捉え、両地域の普遍性や類似性、地域の特異性を把握する。

研究の意義は、提供者、利用者、政策(王都)の間で、伝統医療や民間療法、薬用植物利用がそれぞれどのように捉えられ、影響を受けてきたか両地域の変遷を明らかにすることである。そして、薬用植物利用や普及に関して、王都の役割に着目する比較研究には新規性がある。文献蒐集と現地調査から、2 つの地域を相対化することも地域研究において必要な事例研究となる。

期待される効果は、現代社会における2 つの地域の伝統医療や民間療法、薬用植物利用の在り方を問い直し、将来それらがどのような方向に向かっていくか考察が可能になることである。それにより、近代医療が主流でありながら、近代医療以外の医療や保健サービスが必要とされ見直されている日本と、国民皆保険制度が開始され近代医療が主流となりつつも、今もなお伝統医療や民間療法が支持されているインドネシアの比較ができる。また、現代の伝統医療や民間療法、薬用植物活用の事例として役立てることができ、両地域の地域保健への応用研究も視野に入れている。

 


インドネシアのマンクヌガラ王宮の敷地内にある屋台でジャムウ飲料(写真中央の飲み物)が販売されている(2019 年 8 月筆者撮影)

伊吹山の薬草が入浴剤や薬草茶として利用されている(滋賀県伊吹山文化資料館にて 2020 年 10 月筆者撮影)