VI-5.「マレーシアにおけるイスラーム型中小企業金融と実体経済」(令和3年度 FY2021 新規)


  • 研究代表者:上原健太郎(京都大学・大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

研究概要

本研究は、マレーシアで展開するイスラーム金融に対する分析を通じて、同国で中小企業育成、および金融包摂に関わる取り組みが行われている動態について解明することである。この目的を達成するために、本研究では、「マレーシアのイスラーム金融が、国内の中小企業育成の誘因として機能している」という仮説の検証を行う。

具体的に、(I)イスラーム金融の政策決定(II)中小企業育成を重視した、イスラーム金融による与信業務の実態という2 点に着目する。

詳細

本研究の目的は、イスラーム金融が中小企業振興の誘因として機能するという仮説を検証し、これに関わる政策とその実態を動態的に把握することである。

従来の研究では、マレーシアのイスラーム銀行が国内の生産活動に対しては十分に寄与していないと評価されてきた。しかし、本研究が達成されることで、イスラーム金融の生産金融としての側面を示すことができる。さらに、これまでイスラーム経済制度として挙げられるイスラーム金融、ハラールビジネスは、独立して分析されることが多かったが、本研究ではこれらを統合的に考察する可能性を提示しようと試みている。これらの点で本研究は、東南アジアにおけるイスラーム経済研究において意義をもつ。

本研究が遂行されることで期待される効果は、第一に、中東湾岸地域やアフリカ地域など、他のイスラーム世界の国々や諸地域と比べて、マレーシアにおけるイスラーム経済の制度やサービスがどのような特徴をもつのか解明できることである。

第二に、東南アジア社会経済における多様性理解の促進である。本研究はマレーシアにおけるイスラーム的価値観、そして経済分野における実態に着目している。その研究成果は東南アジア経済社会の多様な動態に関する理解を促進し、大きな意義を持つことが期待される。

第三に、本研究は従来の中小企業金融の在り方を見直す新たな視座を提供できると考えている。中小企業は知名度・信用度ともに低いために、その資金調達の在り方は大きな課題である。そのような課題に対して本研究は、イスラーム的価値に基づく金融と産業振興に関する考察を通じて、中小企業金融の理論・実践に対して新たな価値基準を提示することが出来ると推測される。

 


2021 年度現代中東諸国の政治社会比較研究会における発表(2021 年 9 月16 日)

クランタン州コタ・バルにおけるマレーシア郵便公社前に設置されているイスラーム型動産担保貸付(ArRahnu)の広告(2015 年 8 月撮影)