V-1. 「仏領期メコンデルタにおける大土地所有制の研究」(平成25年度 FY2013 新規)


  • 研究代表者:高田洋子(敬愛大学・国際学部)

研究概要

本研究は、植民地支配下のメコンデルタ(現ベトナム領)における輸出米増産と大土地所有制の史的過程を論じている。植民地文書等の一次資料と臨地調査に基づき、(1)コメ輸出と貿易・国際関係、(2)国有地払い下げ制度(コンセッション)と水田の拡大過程、(3)農村の構造と変容、(4)開発のなかの土地集積及びベトナム人、クメール人、華人などの民族間関係について、詳細かつ多面的に考察したモノグラフである。フランス帝国主義下のメコンデルタ西部社会の変動とその歴史的特質を中心に明らかにするものである。

詳細

(1)本研究はベトナム及びフランスの公文書館等の一次資料の分析に基づいて、メコンデルタ大土地所有制に関する多くの新しい知見を含む。例えば、大土地所有制成立の国際的背景となったコメ輸出市場の変化について、その詳細な記述は類を見ない。本書の刊行は、近代ベトナム社会経済史研究及びインドシナにおけるフランス植民地主義研究に大きく貢献すると思われる。

(2)本研究の特徴は、社会経済史研究を基盤に、国際関係論的な視点、臨地調査による人文地理学的な景観観察及び聞き取り調査も加えた学際的手法を用いた点にある。農村調査と社会科学的分析を結合し、多面的かつ具体的にメコンデルタ大土地所有制の実像に接近している。地域研究のユニークな方法として示唆するものが多い。

(3)大土地所有制の成立と構造を、水田開発を推進した植民地政府の土地払い下げ認可令(土地譲渡)の収集と分析から明らかにした点は顕著な研究成果である。フランス植民地支配がメコンデルタ多民族社会にベトナム人の民族的優位をもたらしたとする指摘も重要な論点といえる。

(4)植民地期のメコンデルタ大土地所有制の成立と崩壊をめぐる問題は、第二次世界大戦後のインドシナ国際紛争の重要な背景であり、その解明は現代のインドシナ社会および諸民族間関係を理解するために有益である。今後、経済交流の進展が見込まれるメコン川流域諸社会に関心を持つさまざまな人びとがこの地域の歴史的課題を理解する一助となるだろう。


フランス植民地時代に開削されたメコンデルタのチョガオ運河を行く

今も各地に残る古めかしい洋館(バクリュウの旧大地主通り