IV-15.「移動者がホームにもたらすもの―中国と東南アジアにおける人口移動と送り出し社会の変容―」(令和1年度 FY2019 新規)


  • 研究代表者:堀江未央(名古屋大学・高等研究院)
  • 共同研究者:黄 潔(京都大学・大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
  • 阿部朋恒(大阪大学・グローバルイニシアティブ・センター)
  • 包 双月(東北大学・大学院文学研究科)
  • 速水洋子(京都大学・東南アジア地域研究研究所)

研究概要

本研究は、現代中国および中国と近接する東南アジア諸国のあいだで起こる、グローバル化と経済格差に起因する労働移動や婚姻移動などの人口移動に着目し、人々の常態化する移動が送り出し社会にもたらす影響を明らかにするものである。具体的には、繰り返される人の往来や常態化する人の不在が、ローカルな社会を成り立たせるうえでの生業、宗教、文化、言語的基盤や民族意識をいかに変容させているのかを、中国および東南アジアの地域間比較を通して検討する。

詳細

本研究の目的は、中国、タイ、ミャンマー各地における市場経済の浸透や地域間経済格差の拡大にともなって進展する人口移動が、送り出し社会に与える影響を明らかにすることである。20 世紀後半以来、農村から都市部へと向かう人口移動はグローバルな規模で進行してきた。たとえば中国では、沿海都市部はかつての地域人口を上回るほどの流入人口を抱える一方、内陸部の人口流出地では労働力不足が慢性化している。また、東南アジアでは、国内の労働移動のみならず、経済成長著しい中国に向かう就労や就学・婚姻を含む移動が拡大している。本研究は、人の行き来が常態となる送り出し地域の農村に移民がもたらす変化について、ローカルな論理に着目しつつ明らかにする。

本研究の意義は、主として経済原理に基づいて論じられてきた人口移動を、送り出し社会のローカルな論理をもとに再考することにある。社会変化を民族誌的に記述するのみならず、中国と東南アジアにおける調査事例と研究動向の相違を踏まえた比較研究を行い、政治・経済のマクロな制度的側面に起因する影響との関連を明らかにする。

本研究に期待される成果は、第一に現代中国の人口移動研究への人類学的貢献である。中国の人口移動研究は計量的分析が多く、質的研究は未だ数が限られているため、各地域のローカルな論理の蓄積として描きなおす必要がある。それを通して、人口移動が中国社会にもたらすインパクトを文脈化できる。第二に、東南アジア大陸部における人口移動の研究事例を中国の影響との関連性でとらえなおし、東南アジアと中国の研究上の分断を架橋することである。

 


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